大切にしている毛皮を私にくれた祖母
冬になると、いつも首に毛皮を巻いていた祖母。大切にしていたその毛皮を、ある年の春、4月になって突然「これ、あげるよ」と私にくれたのです。
まだ春のはじまりで、寒さが完全に去ったわけでもない時期でした。
「えっ?でもまた冬が来るし、おばあちゃん使うんじゃないの?」と、思わず言いかけましたが、祖母は穏やかに笑って、ただ静かにその毛皮を手渡してくれました。
その時の祖母には、特に病気の様子もなく、まだまだ元気でいてくれると信じていたのです。
けれど、それからわずか数週間後──祖母は体調を崩して病院へ運ばれ、そのまま帰らぬ人となってしまいました。
毛皮を受け取って、ちょうど1か月ほど。
あの贈り物は、祖母なりの“静かな別れの準備”だったのかもしれません。
◆大切なものを託すということ
「死を悟っていたのでは?」
「何か“知らせ”のようなものがあったのでは?」
そう思うと、贈り物の意味がより深く、切なく感じられます。
高齢の方が、生前に身の回りの大切な物を誰かに託すことがあります。
それは「物の整理」以上に、“心の準備”や“感謝の気持ち”を伝える行為でもあるのかもしれません。
特に、思い入れのある品を託されたとき、人は直感的に「なぜ今これを?」と感じることがあります。
それは目に見えないけれど確かな“つながり”や“サイン”のようなもの。
◆「知らせ」や「予感」は誰にでも訪れる
今回の体験は、いわゆる「虫の知らせ」とも言えるかもしれません。
科学的に証明できるものではありませんが、私たちはときに、大切な人の心の変化や気配を、言葉より先に“感じ取る”ことがあります。
それは決して怖いものではなく、愛や絆の証のようにも感じられます。